ここ数年で、色々な分野でオートメーション化やAIの導入が急激に進みましたね。薬剤師の仕事もこれからは部分的に自動化やロボット・AI技術での代替えが進むことが予想されます。
今回のコラムでは、薬局のオートメーション化やAI活用がどのように進んでいくか、実例を挙げながらご紹介します。それらを踏まえて『AI時代に生き残る薬剤師になるために必要なこと』をみていきましょう。
調剤業務のオートメーション化が実現!?これが薬局の未来の姿!?
調剤薬局業界はデジタル化が遅れており、オートメーション化はまだまだと考えている方も多いのではないでしょうか。そんな考えを見事に打ち破り、薬の調剤業務の9割を自動化・半自動化した店舗をトモズが実験店舗として昨年整備しました。*1
《以下の調剤オペレーションがすべて自動化に》
・ピッキング → 軟膏や張り薬を除く9割の薬のピッキングを機械が行う
・散剤の調剤 → 処方データを流すだけで散薬調剤ロボットが調剤
・水剤の調剤 → 投薬ボトルをセットし、スタートボタンを押すだけで水剤定量分注機が調剤
・一包化 → 全自動錠剤分包機が行う
・一包化の監査 → カメラ付きの錠剤一包化鑑査装置が撮影しながら行う
とてもうらやましくなる設備ばかりですね(笑)
20~30年後、もしくはもっと早い将来、このような設備が当たり前になり、今行っている業務について「昔はこんな作業も人の手で行っていたのだよ~」なんて懐かしく思うときが来るかもしれません。昔薬包紙で薬を包んでいたことを驚くのと同じ感覚で。
この設備を入れた店舗では調剤に割いていた時間を対人業務に充てることができるようになり、より充実した服薬指導をすることができるようになったといいます。
処方薬が駅のロッカーで受け取り可能に?
事前に薬局で服薬指導を受け、後で駅の専用ロッカーで受け取りができるというサービスを京都駅でクオール薬局が始めました。服薬指導後にスマホに発行した暗証番号を、ロッカーにある端末に入力することで薬を受け取ることができる仕組みを利用しています。患者さんが仕事の昼休みに処方箋を出し、帰りに駅で受け取るような使い方を想定しているそうです。 *2
このような事例をふまえると、将来的に各店舗の調剤薬局では処方箋受付と服薬指導のみを行い、大規模な設備の整った調剤施設で一括して調剤を行ったものを、駅のロッカー等で受け取るというスタイルが実現するかもしれません。調剤薬局の多くは小規模店のため、オートメーション化の機械を入れることは難しそうですが、大規模な施設と連携するといった形でなら小さな店舗でもオートメーション化を取り入れることができそうです。
仮にこういったスタイルの薬局が実現した場合、店舗にいる薬剤師は服薬指導に専念することができ、仕事の効率も上がりそうですね。
AIが処方監査、疑義照会、服薬指導を支援!?
過去から蓄積している膨大な調剤データと、疑義照会や服薬指導の記録をパターン学習したAIによる「薬剤師支援AIプロジェクト」の運用をクラフト株式会社が開始しました。服薬指導において気をつけるべきポイントを、当該薬剤師のキャリアに応じてリアルタイムで教えてくれるAIシステムとなっており、患者さんの満足度向上と業務効率化の両立を目指しているそうです。*3
服薬指導の内容は個人のキャリアや資質に大きく依存している部分が多く、ベテラン薬剤師の場合、「この薬はこのことを説明しておいた方がいい」など、自分の経験に基づいて指導をできますが、経験の浅い薬剤師の場合、教科書的な指導にとどまってしまうことが多いと思います。しかし、このシステムを利用すれば、今まで属人的だった知見が集積・共有され、キャリアによらず、適切な服薬指導を行うことが可能になるとのことです。
確かに自信をもってさまざまな薬について服薬指導ができるようになるには経験が必要ですが、AIを用いることでこれを補うことができるということですね。ベテラン薬剤師でも指導に漏れが出てしまうことがヒューマンエラーとしてあり得ると思いますが、このシステムを用いれば防ぐこともできるかもしれませんし、その点でも有用といえそうです。
オートメーション化・AI活用が進む時代に生き残る薬剤師になるには
オートメーション化導入事例やAIの活用事例を見てきましたが、便利になる反面、「仕事がなくなるのでは」「薬剤師として生き残っていけるかな…」と不安になる方も多いのではないのでしょうか? 確かに今まで行ってきた対物業務は確実に少なくなっていくでしょう。そのかわりに対人業務を充実させることが薬剤師には求められています。対人業務のスキルを上げていくことがこれからの時代は不可欠と言えそうです。
具体的に言うと、オートメーション化・AI時代に生き残れる薬剤師になるには、シンプルですがAIにできない仕事を極めることが重要です。医療分野ではロボットではなく、人に対応してほしいという声が特に多く聞かれます。ロボットにはできない人としての対応力を極めるということが大事と言えそうです。
ロボットにはできない人としての対応力を高めるには・・・
【1】患者さんの訴えを親身になって聞ける共感力
【2】会話から患者さんの生活背景をくみ取り、そこから服薬指導につなげていく会話力
を身に着けることが大切です。普段の忙しい業務の中でもこの二つを意識すると、患者さんに与える印象も大きく変わります。
【1】患者さんの訴えを親身になって聞ける共感力 とは・・・
薬局に来られる患者さんは高齢者が多いかと思いますが、一人で住んでいるなど、日常的に話し相手がいない方も多くおられます。そういう方にとっては、薬局で薬剤師と話すことで気分転換になる場合が大いにあります。
また、薬局に来られる方は、病気や体のことで、心配や不安を抱えている方も多いと思いますが、心配や不安に思っていることを話すだけでも気持ちが軽くなったり、話しているうちに解決できたりすることも多くあります。
このように、話すこと自体が患者さんの精神面に良い影響を与えることが多いため、時間の許す限り患者さんの話に耳を傾けることはとても重要と言えそうです。
また、単に耳を傾けるだけではなく、患者さんの話に興味を持って聞くという姿勢が大切です。興味を持って聞いてくれているのといないのとでは、話し手の受け取り方もだいぶ違います。患者さんが話しやすい環境づくりを心がけましょう。
【2】 会話から患者さんの生活背景をくみ取り、そこから服薬指導につなげていく会話力 とは・・・
単なる薬の説明であれば、AIロボットで代替が可能です。これから私たち薬剤師に求められてくるのは単なる薬の説明ではなく、その患者さんひとりひとりにあった服薬指導やアドバイスということになるでしょう。
患者さんの生活背景を聞いたり、一歩踏み入った指導をしたりすることになるので、患者さんとの信頼関係の構築が前提となります。【1】の共感力を磨いて信頼関係を築き、患者さんに自分のことを話してもらうことから始まりますね。
4月からの診療報酬改定ではさらに対人業務に重きが置かれる改定となり、今後もその流れが続くことが予想されます。この流れに飲み込まれないよう、対人業務のスキルを上げることを意識して日々の業務に取り組んでいきたいですね。
参考資料:
*1)トモズ、調剤オペレーション自動化の実証実験を開始(MD NEXT2019.5.15)
https://md-next.jp/11105
*2)クオールHD、デジタル改革で挑む薬局の岩盤規制(日本経済新聞2020/1/30)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54989890Z20C20A1TJ1000/
*3)“調剤業務”から“対人業務”へ——AIで実現するさくら薬局のデジタル変革
https://www.ibm.com/think/jp-ja/business/sakura-ai/