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無医村に薬を 日本で生まれた「置き薬」がアフリカへ 

無医村に薬を 日本で生まれた「置き薬」がアフリカへ 

320年以上前に日本で生まれた置き薬。これが今アフリカで多くの人を救っていることをご存じでしょうか?今回はNPO法人AfriMedicoがアフリカで行っている「置き薬」プロジェクトについてご紹介します。

「そもそも置き薬って聞いたことはあるけど、どんな仕組みなの?」という方もいるかもしれません。まずは基礎知識として置き薬の仕組みについて見ていきましょう。

置き薬の仕組み

  1. いろいろな薬が入った救急箱を各家庭に置いておきます。この配置の時点ではお金はかかりません。
  2. 使った分だけ後払いで代金を支払います。

本当に体調が悪い時はドラッグストアや病院に行くのもつらいですよね。そういうときに家に置き薬があると安心ですね。しかも、使った分だけの支払いなので無駄がなく、導入がしやすい販売方式と言えるでしょう。

さて、そんな置き薬がどのようにしてアフリカへ渡ることになったのでしょうか?

置き薬がアフリカへ渡るまで

アフリカの無医村に置き薬を配置するプロジェクトを立ち上げたのはAfriMedico代表理事で薬剤師の町井恵理さんです。町井さんは製薬会社を退社後、青年海外協力隊としてアフリカのニジェール共和国で感染症対策のボランティア活動を行いました。その時にニジェールの診療所で患者に必要な薬が届いていない状況を目の当たりにしたそうです。
アフリカでは交通費や輸送費が高いため、奥地の人々は病院へ行くこと自体が困難であり、村にも十分な薬は供給されていませんでした。
帰国後、経営大学院に進んだ町井さんは「置き薬」のビジネスモデルを思いついたそうです

かつて日本で置き薬が普及した背景には

 インフラが整備されていない
 国民皆保険制度がない
 大家族で暮らしている方が多い

という要因があったといいます。
アフリカの国々にはこの条件に当てはまる地域が多く、大きなニーズがあると考え、導入に至ったということです。

タンザニアに置き薬が普及するまで

まずは現地の病院を対象に、どんな疾病が多いかというヒアリングを行い、その中で置き薬が利用できそうな疾病がないかどうか調べました。その結果、頭痛や下痢が多いのは想定内だったそうですが、「首の筋肉痛」が多いことに驚いたそうです。タンザニアは荷物を頭に乗せて運ぶ習慣があるため、そういった症状を訴える患者さんが多いということです。


Photo by Blue Ox Studio from Pexels

そのほか、看護師や薬剤師、大学の薬学生などを中心とするタンザニア人のメンバーにも必要な薬を選定してらったといいます。

その後、置き薬を置いてみないかという提案を各家庭にして回りました。置くのは無料ということもあり、何軒かの家がまず導入し、口コミが広がり、置き薬が少しずつ広がっていきました。

現在では200以上の世帯に置き薬を提供しているとのことで、大量輸送により、薬代を100~200円ほどにして、農村部の住民でも買える価格設定を実現することができました。

置き薬の提供を通して

薬を売るだけでなく、スタッフが住民と対面し、健康状態を確認したり、薬の使い方を教えたりすることも、「置き薬」のシステムの中で大切な部分であるといいます。
タンザニアでは日本のような皆保険制度は存在せず、病院までのアクセスも悪いため医療資源が不足しています。さらに所得が低いため、医療サービスを受けることができず、症状が悪化し働けず、収入が減るという悪循環が起きてしまっています。
置き薬の設置と医療教育によってこれらの悪循環を解消し、人々の健康増進に貢献するという好循環への転換を目指しているそうです。

日本の置き薬が世界を救う

日本で育った置き薬がアフリカの人々の暮らし、医療を支えていると思うと嬉しいですね。「置き薬」は単なる薬を提供するシステムというだけでなく、「置き薬」を通して医療教育を施すことでもあり、相乗効果で医療環境を改善する力を秘めています。
遠いアフリカで活動しているAfriMedicoですが、寄付をすることで応援することができます。ご興味のある方はホームページをのぞいてみてください。

AfriMedicoホームページ
https://afrimedico.org/

置き薬の活動を知って

現在の日本ではすぐにドラッグストア等で薬を購入できるため、置き薬を利用している家庭はあまり多くないと思いますが、その置き薬が今アフリカで多くの人々を救っていると知り、驚きました。そして日本で生まれた文化が、海外で根付いて役に立っていると思うと、とても嬉しい気持ちになりました。
それと同時に、必要な時に必要な医療を受けられない人々がいることに驚きました。私たち日本人には医療サービスは受けられて当たり前となっていますが、必ずしもそうではなくて、必要な時に必要な医療サービスを受けられることは、とても幸せなことなのだと気付かされました。
私は医療を提供する立場にありますが、医療サービスを提供していくことに誇りと責任を持って、業務に取り組んでいきたいと改めて思いました。


参考資料

日本発祥の「置き薬」でアフリカ奥地の医療改善を目指す(首相官邸2017年夏号)https://www.kantei.go.jp/jp/headline/contributing_worldwide/machii.html

「富山の置き薬」を通じて、アフリカにセルフメディケーションを広めるAfriMedico(2030SDGsで変える2019/1/25)
https://miraimedia.asahi.com/afrimedico/

日本発祥の「置き薬」をアフリカで。医療の手が届かない場所に薬を(FNN PRIME2020/2/29)
https://www.fnn.jp/articles/-/22633

アフリカに置き薬と医療教育を届けるNPO法人AfriMedicoが認定NPOを取得(PR TIMES 2019/12/4)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000018245.html

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