ドラえもんのひみつ道具の一つに、「お医者さんカバン」というものがあります。カバンから伸びている聴診器を身体にあてると、カバンが診断をし、特効薬まで出してくれるすてきなカバンです。残念ながら、私たちの世界からそこまでの世界になるにはまだ相当な時間が必要なようですが、自宅に居ながら医師からのお薬が手元に届く世界は、実は、すでに私たちの世界では実現しているのです。
一部の地域で始まっているオンライン服薬指導
スマートフォンやタブレットを使用し、薬局に患者が来局しなくてもリアルタイムで服薬指導を行うことをオンライン服薬指導といいます。ここで注目すべきなのは、厚生労働省はオンライン服薬指導という言葉の使用を避け、限られた地域内における暫定的措置として、あえて遠隔服薬指導とういう言葉を使用しているというところです。今後、全国での遠隔服薬指導が認められれば「オンライン診療」と並び「オンライン服薬指導」という言葉が正式に出てくるものと考えられます。
オンライン診療がOKでオンライン服薬指導はNG?
オンライン服薬指導の導入については、以前より、「薬局の業務効率化に利用することを目的としている」「ハイリスク薬を服用している患者もいることが想定される」などを理由に導入に対し慎重論を唱える人がいました。
しかしながら、2018年4月から診療報酬改定にて保険診療での診療報酬の点数が新設され、オンライン診療が認められたことは、オンライン服薬指導の実現化において、大きな駆動力となりました。
薬機法では、服薬指導は対面が原則としていましたが、2016年より特例措置として国家戦略特別区でのみ条件付きで「遠隔服薬指導」を認め、2018年には、愛知県、福岡県、兵庫県で実証実験が行われました。さらに、「暫定的に薬剤服用歴管理指導料を算定できる」とし、公的医療保険の対象となっています。ところが、遠隔医療の一環で行われた実証実験は、症例が少ないことから、エビデンスの蓄積の課題が浮き彫りとなってしまいました。
そこで、国家戦略特別区域内のへき地のみ可能であった遠隔服薬指導を、2019年9月30日より条件付きで許可する形となりました。遠隔服薬指導の実証的実施の拡大を目的として、要件を満たせば「都市部での遠隔服薬指導も許可する」としたのです。
エビデンスが増えない理由は要件の厳しさが要因
実際に、遠隔服薬指導が行われた株式会社アインファーマシーズのレポートを見ると、「画面越しの服薬指導について、通常と変わらない指導ができた」としながらも、以下の問題点が挙げられました。
・独居の高齢者では大変だと思う(家族や訪問看護師の同席が必要)
・電子お薬手帳の方が有効である
・オンラインで服薬指導をするにあたり、指導日・指導時間をあらかじめ予約しておき、指導側と患者側が時間ぴったりにシステムを立ち上げる必要がある
参考:「オンライン服薬指導」(株)アインファーマシーズ
https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/294458.pdf
さらに、遠隔服薬指導の要件自体は非常に厳しいものとなっています。
まず、遠隔服薬指導を行うにあたり、処方箋は対面以外の方法による診察(いわゆるオンライン診療など)によって交付された処方箋でなくてはいけません。また、対応できる患者はかかりつけ薬剤師・ 薬局による対面での服薬指導を行ったことのある患者であり、かつ服薬指導計画書を作成していることを条件としています。
遠隔服薬指導を行う前には事前に、利用者へ情報通信機器の設置や使用方法の説明が必要となり、セキュリティリスクやプライバシー保持のための説明も行い、それに対する同意を得ることも重要です。それらを行ってから初めてオンラインでの服薬指導が可能となるのです。
加えて、システム操作が一人では困難な患者の場合は、家族や訪問看護師などの援助者の同席が必要であり、利用者側の協力が不可欠となってきます。そして、処方変更などにより、計画書にない薬剤の指導が必要になった場合は、対面での指導へと切り替えなければならないのです。
以上のように現時点では要件が厳しいですが、オンライン診療の普及や促進のためにも、今後オンライン服薬指導の実現化は必要不可欠となるので、次第に要件の緩和を求める声は増えてくることでしょう。実際に、遠隔服薬指導が行える調剤薬局は少しずつではありますが増えてきています。オンラインで服薬指導ができるということが、ほかの薬局との差別化を図る事業の一つになる日はもう始まっているのかもしれません。
必ずや来る未来。仕事しながらいつものお薬がもらえる!
オンライン服薬指導がより一般化すれば、現在、難航している地域医療構想の効率化や地域包括ケアシステムの構築にもとても有効な手段となります。
また、インターネットを使用したテレビ電話によるオンライン診療から、オンライン服薬指導を経て処方薬が患者の手元に配達されることが実現化され、さらに病院と薬局間で患者のヘルスデータ情報・処方箋情報の連携が可能になることにより、通院の手間や待ち時間がなくなります。高齢者だけではなく、働き世代に対する生活習慣病の早期予防や、治療の離脱の問題解決において効果的な手段となり、重症化防止そして医療費削減へとつながっていくでしょう。子供を持つ親にとっては、受診時の二次感染が心配になりますが、その問題もクリアされます。
千葉県では、2016年にドローンによる医薬品配送の実証実験も既に行われました。オンライン診療からオンライン服薬指導までの一連の流れが実現されれば、自宅にいながら、または仕事をしながら処方薬が手元に届く画期的なシステムとなるでしょう。
今後は特区内の都市部での「遠隔服薬指導」の解禁や、エビデンスの集約状況によって、オンライン服薬指導が2020年度診療報酬改定にどう影響してくるかが注目となります。