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薬剤師が解説!処方箋が要らない零売薬局とは?

薬剤師が解説!処方箋が要らない零売薬局とは?

普段聞き慣れない零売という言葉は、国語辞典にも広辞苑にも載っていない言葉です。しかしながら、明治24年に発行された「薬品巡視私考」(現在でいう日本薬局方解説書)の目次に「薬剤師ニ非ザレバ零売スルヲ得ザル薬品類」(薬剤師でなければ零売することができない薬品類)とあり、日本では昔から使われている言葉なのです。現在の薬局では主にPTP包装された薬剤を扱いますが、当時は、保存容器からの秤量調剤が主流で、「分割販売」をしていました。この販売方法を零売と言います。では、現代における薬を分割販売できる薬局『零売薬局』とは一体どのような薬局なのでしょうか?

処方箋なしで病院の薬が買える!?

零売薬局とは、処方箋がなくても、直接薬局へ行くだけで医療用医薬品が買える薬局のことを言います。しかし、すべての医療用医薬品が買えるかというと、そうではありません。
医療用医薬品は「処方箋医薬品」と、比較的作用が緩和な「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」に分類されており、そのうち零売薬局で購入できるものは「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」です。
「処方箋医薬品」の種類としては降圧剤・糖尿病薬・睡眠薬・抗生剤・抗がん剤・精神安定剤などがあり、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」は鎮痛薬・胃腸薬・風邪薬・抗アレルギー薬・(抗生剤を含まない)軟膏や点眼薬・下剤・ビタミン剤・呼吸器疾患薬・漢方などがあります。

「処方箋医薬品」と「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」ともに、正当な理由がない限り、原則処方箋がなくては販売できませんが、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」の場合、「一般用医薬品(OTC)での対応を考慮したが、やむを得ず販売をしなくてはならない場合は、病院受診を勧めた上で処方箋がなくても使用者本人にのみ販売してもよい」と、薬機法において特例的な位置付けにあるのです。

そして、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」は、販売するにあたり、「処方箋医薬品」と同様に扱われなくてはいけないため、以下の留意点があります。

1.必要最小限の数量を販売しなければならない。
2.販売した場合は、品名、数量、販売の日時等を書面に記載し、2年間保存しなければならない。
3.薬局においては、調剤室又は備蓄倉庫において保管しなければならない。
そして、薬剤師自らにより、調剤室において必要最小限の数量を分割した上で、販売しなければならない。

さらに、一般人を対象に広告をしてはいけないルールもある上、「処方箋医薬品」と同様に服薬指導も行わなければなりません。また、販売時には添付文書又はその写しの添付を行うなどの義務もあるのです。

処方箋医薬品以外の医療用医薬品はOTCと何が違う

「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」のなかには、OTCにも分類される薬もあります。例えば、PL顆粒(総合感冒薬)やロキソニン(鎮痛剤)や漢方などがそうです。では、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」としてのロキソニンを購入した時と、OTCのロキソニンを購入した時の違いはどこにあるのでしょうか?

前述の通り「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」はあくまでも医療用医薬品として扱わなければなりません。そのため、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」としてのロキソニンは、薬歴管理が義務づけられている薬局での対面販売でしか購入できません。また、処方箋が要らないので、処方箋料の負担はなくなりますが、保険調剤ではないので、薬剤料は全額自己負担となります。しかしそれでは街角のドラッグストアや自宅からインターネットで購入した方が便利なのでは?と思いますよね。
やはり、零売薬局も利益がなくては商売ができません。それゆえOTCの価格よりは安価で購入できるよう設定されています。

仕事の都合で病院を受診できないものの、いつも処方してもらっている薬がなくなってしまった人は零売薬局があると助かるでしょう。保険薬局同様、薬歴管理もされているので、二回目以降の来局の際は、他に服用中のお薬との相互作用等を薬剤師が把握していますし、他のお薬の紹介もしてくれるので、ドラッグストアでOTCを購入するよりも、安心して購入できます。また、零売薬局のなかには、来局予約ができる薬局があるので、予約すれば薬局での待ち時間もなく薬を購入することができます。
一方で、零売薬局で購入した薬により重大な副作用が生じてしまった場合、零売理由が妥当でないと、医薬品副作用被害救済制度が適用にならず、なにも補償されない可能性もあります。そのため、病院の受診が面倒だからなど、安易な理由で薬を購入することは、現時点でのルールでは危険な行為ですのでやめましょう。

零売で薬剤師の信頼を得ることが医療費削減となるか

現在、国では処方における湿布薬の枚数制限や、セルフメディケーション税制の施行、花粉症薬を医療保険の適応から外して自己負担にすべきなど、医療費を削減するために様々な策を考えています。
2005年に厚生労働省が零売を条件付きで容認したことも、「処方箋医薬品」を減らし、医療費を削減したいという考えがあるのでしょう。現在、国内の零売薬局は少ないものの、2019年8月に日本初の零売薬局チェーン店が開局するなど、今後も増える可能性があります。
一方、零売薬局に対し、「受診遅れによる症状悪化や健康被害に悪影響を及ぼす懸念もある」と批判の声もありますが、それは同時に薬剤師への信頼や期待がないことを意味しています。薬剤師は医師のように診断はできませんが、フィジカルアセスメントを行えば、早急な受診が必要であるか否かの判断ができるので、むしろドラッグストアやインターネットで薬を購入するよりも、早期受診に繋げることができます。零売薬局による実績を積み重ねていけば、零売の需要は多くなり、医師は外来における業務が減ることで入院患者の治療に専念できるようになるでしょう。
医薬分業を行う本来の理由は、医学又は薬学の専門的業務に専念し、より安全に医療行為が行われることを目的としています。制度にとらわれず、実績を重視し、医療の質の向上を図ることを目指していきたいものです。

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