突然ですが、みなさんは薬剤師の平均年収をご存じですか? 2018年の日本の薬剤師の平均年収は544万円だそうです。(平成30年度賃金構造基本統計調査から算出)
これは世界の中ではどの程度の位置付けなのでしょうか?
今回は『薬剤師の平均年収が高い国TOP10』をリストアップしてみました。
国別薬剤師平均年収TOP10 (万円) |
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1位 | 米国 | 1220 |
2位 | スイス | 880 |
3位 | 香港 | 730 |
3位 | カナダ | 730 |
5位 | アイルランド | 620 |
6位 | ノルウェー | 560 |
7位 | スウェーデン | 530 |
8位 | オーストラリア | 510 |
9位 | ベルギー | 500 |
10位 | ニュージーランド | 480 |
(ソース: PayScale ※日本はデータソースになかったため除外) |
ランキングを見ると、アメリカ、スイス、香港、カナダ、アイルランド、ノルウェーなどの国が日本より年収が高そうなことがわかります。これらの国ではなぜ薬剤師の年収が高いのでしょうか?
各国の薬剤師事情
アメリカ
以前ファーマボックスでも特集 ( 海外で薬剤師が「信頼される職業」の上位にランクインする理由1 アメリカ編 ) したことがありますが、アメリカでは、州によっては薬の処方や予防接種などについて裁量が認められており、薬剤師は尊敬を集めている職業でもあります。
薬剤師の人数は10万人あたり約94人で、日本の3分の1程度の人数です(*1)。アメリカで薬剤師になるためには4年制の薬学博士号(Pharm.D.)を取得する必要があり、薬学課程への入学には最低2年間数学や化学などを履修していることが求められます。しかも、薬学課程への入学の競争率は極めて高く(大学によっては10倍近くになることも! )4年の学士号を取得していなければ現実には入学は難しいようです。よって、通常薬剤師になるには学士と薬学博士で8年間かかることになります。学士号の必要ない6年制の薬学課程も存在しますが、定員は少なく入学はかなり困難のようです。
さらに、薬学博士を修了しても、薬剤師として働くには2つの国家試験に合格する必要があり、州によっては一定以上の期間の研修経験がなければ働くことができません。
このように、アメリカでは薬剤師として働くためのハードルがかなり高いことも薬剤師の年収が高くなっている一因と考えられます。
スイス
スイスで薬剤師になるには、3年の学士課程と1.5~2年の修士課程を修了する必要があります。また、薬学の課程がある大学はスイス国内に3つしかなく、いずれも国際的に評価の高い名門大学です。狭き門をくぐり抜けて大学に入学し、日々の学業や修士論文、薬局や病院での研修を経て、国家試験に合格すると晴れて薬剤師として活躍できるようになります。薬剤師の人数は人口10万人あたり約50人で、日本の5分の1程度しかいません。
スイスにも日本のかかりつけ薬局制度のようなものがあり、患者さんは薬局で自分の情報を残すためのファイルを開設します。しかし日本のおくすり手帳とは違い、そのファイルは薬局内でしか見ることはできず、他の薬局に持ち出すことはできません。
医薬品の扱いも日本と異なり、スイスでは医薬品の2/3が医師の処方箋の要らないOTC医薬品です。さらに、ほとんどのOTC医薬品は薬剤師だけが販売ができ、処方箋が必要な薬についても医師が直接薬を患者さんに渡すことはできないため、薬剤師の役割は大きいと言えます。
カナダ
カナダで薬剤師になるには薬学部を卒業して国家試験に合格する必要がありますが、薬学部があるのは10大学に限られています。薬剤師の人数は10万人あたり約115人で、日本の半分弱程度です。
薬剤師ができることは州によって異なりますが(薬剤師免許も州をまたぐと使えない)、ある条件の下で医師の処方箋がなくても薬を処方することができたり、処方箋の処方量や期間を調整したり、以前の処方箋を更新したりするなど、大きな裁量が認められていることが多いようです。
アイルランド
アイルランドで薬剤師になるには、薬学の5年一貫の修士課程を修了する必要があります。薬学の修士課程が設置されている大学はアイルランド国内に3つのみで、入学難易度は高いようです。修了後に薬剤師資格試験と薬剤師登録試験に合格することで薬剤師として働き始めることができます。薬剤師の人数は10万人あたり約132人です。
薬剤師は処方箋に基づく薬の処方だけでなく、インフルエンザワクチンの接種、血圧測定、コレステロール検査、禁煙治療などを行うことができ、裁量が大きいと考えられます。また、薬剤師として働き始めた後も、勉強を続けることが求められており、定期的にその成果を報告する必要があるなど、薬剤師に対する期待も大きいようです。
ノルウェー
ノルウェーの薬剤師は、5年の修士号が必要な「修士薬剤師(pharmacist)」と、3年の学士号が必要な「学士薬剤師(prescriptionist)」の2種類に分けられています。また、この他にも、薬局での接客や在庫管理など、薬剤師の補助業務を行う「薬局技士(pharmacy technician)」も存在します。薬学の修士号が得られる大学は4つ、学士号が得られる大学は3つしかなく、狭き門であることが伺えます。実際、10万人あたりの薬剤師の人数は、修士薬剤師と学士薬剤師を合わせても約66人であり、日本の4分の1程度に過ぎません。
薬剤師の年収が高い国では、薬剤師の裁量や薬剤師に期待されるものが大きく、日本以上に薬剤師になるためのハードルも大きいようです。それが結果として高い年収につながっているように思われます。
日本でも6年制薬学部の一期生が薬剤師になってから7年経ち、薬剤師に対する社会的な期待も高まってきています。これからも大きな変化を続けていく薬剤師業界に要注目ですね。
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*1 日本の薬剤師は10万人あたり238人(厚生労働省「平成28年 医師・歯科医師・薬剤師調査」より)
参考資料:
PayScale https://www.payscale.com/
アメリカ
Statista「Number of pharmacists in the U.S. from 2001 to 2016」
Verywell Health「The Degree Needed to Be a Registered Pharmacist」
Oregon State University「Pharm.D. Frequently Asked Questions」
Peterson’s「Doctor of Pharmacy License Requirements」
スイス
GSASA「Apotheker Grundausbildung」
Central-Apotheke Thalwil AG「How does the swiss pharmacy and drugs system work? An explanation」
InterNations GO!「Pharmacies in Switzerland: One on Every Corner」
Swiss Federal Office of Public Health「Switzerland Pharmaceutical Country Profile」
カナダ
Canadian Pharmacists Association「Pharmacists in Canada」
Canadian Pharmacists Association「How to Become a Pharmacist in Canada」
NAPRA「Pharmacists’ Scope of Practice in Canadian Jurisdictions」
アイルランド
PSI「PSI Data」
PSI「Becoming a Pharmacist」
Med Pharm「10 Main Training Steps You’ll Have to Take to Become a Pharmacist in Ireland」
Irish Pharmacy Union「Pharmacy in Ireland」
ノルウェー
EPhEU「More about pharmacy in norway」
Apotekforeningen「Trained healthcare professionals」
日本
厚生労働省「平成30年度賃金構造基本統計調査」