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高齢者への服薬指導 ~ポリファーマシーを防ぐために薬剤師ができること~

高齢者への服薬指導 ~ポリファーマシーを防ぐために薬剤師ができること~

日本では高齢化が急速に進んでおり、高齢患者に対する服薬指導の需要はますます高まっています。特に薬の服用種類が増えやすい75歳以上の高齢者人口が増加しており、ご高齢の方に配慮した服薬状況の把握や服薬支援が求められています。

診療報酬においても2016年から減薬への対応が評価され、2020年には入院時のポリファーマシーに対する取組の評価が改定されるなど、ポリファーマシーを防ぐための積極的な取り組みが期待されています。
今回は高齢者に多い薬の問題であるポリファーマシーを防ぐために薬剤師ができることにフォーカスしてお話ししていきたいと思います。

高齢患者が抱える薬の問題点

高齢者の中には御自身でしっかりと薬を管理されている方もいらっしゃいますが、管理に手助けが必要な方も多くいらっしゃいます。自分が服用している薬にどんな効果があるのかわからない患者さんは特に注意が必要です。

薬が多いため何種類かの飲み忘れや、薬が数種類ないのに気が付かなかったといった事例がよくあります。1日3回の薬を1日1回しか飲んでいなかったなど、用法を間違えているケースも多いです。

特に一人暮らしの高齢者の場合、飲んでいないことに自分自身が気が付かず、ご家族と一緒に暮らしていないため、ある時家で大量の残薬が見つかることは珍しくありません。

必要な薬を服用していないことによって、医師は効果が十分に現れていないのは薬が効いていないのではと判断し、さらに薬を追加してしまうこともあります。薬をきちんと服用できないことが、場合によっては生死に関わる問題になります。

ポリファーマシーとは?

「Polypharmacy(ポリファーマシー)」は、「Poly」+「Pharmacy」(多くの薬)から多剤併用を意味する単語です。一般的には「ポリファーマシー」というと、単なる多剤服用のことではなく、多くの薬を服用することにより副作用やアドヒアランス低下などの有害事象を起こすことを指しています。

高齢になると、生活習慣病や持病などが重なり多数の薬を併用する機会が多くなります。
厚生労働省の調べでは、75歳以上の高齢者の約4人に1人は、7種類以上の薬が調剤薬局で処方されており、6種類以上の服用が有害事象の発生増加に関連したというデータもあります。
多剤併用は、様々な診療科から処方された同系統の薬、副作用に対して別の医療機関を受診し処方された薬、アドヒアランスの低下などの要因により、予測のできない有害事象が起こる可能性が高くなります。

ポリファーマシーを防ぐため、薬局薬剤師は薬を処方箋通りに出すだけではなく、患者さん本人の性格や病状、置かれている環境に一歩踏み込んで服薬支援をすることが重要になってきます。

高齢者への服薬指導のポイント

薬による事故を防ぐため、高齢者に服薬指導を行う上ではポリファーマシー等の問題を意識したヒアリングが重要です。以下のような項目を、監査と投薬または事前に確認する必要があります。

  • 用法用量の説明を理解できたか
  • 余っている薬(残薬)はないか
  • 飲みにくい、使いにくい薬はないか
  • 副作用の具体的な症状が出ていないか
  • 薬の増量、減量、新規処方時は医師からその話があったか、何故この量になったのか
  • 風邪薬など臨時処方の場合は定期薬と重複していないか

これらの項目を確認する際のポイントについて、順に見ていきましょう。

1.用法用量の説明を理解できたか

多くの薬を飲む患者さんにとって、用法用量をしっかり理解いただくのは難しい場合があります。
もし理解いただけないまま誤って服用してしまうと、過量摂取により副作用が発現したり、過少摂取により効果がうまく現れなくなったりする可能性があります。
薬が多い患者さんには投薬時、「朝は全部で何錠で昼は全部で何錠」など、服用時点ごとに何錠飲む必要があるのかお伝えすることで、正しく飲めるよう意識しやすくなることがあります。
患者さんの理解度を確かめる方法としては、こちらから一方的に説明するのではなく、患者さんに話してもらうスタンスを取ることも重要です。

2.余っている薬(残薬)はないか

余っている薬がある=飲み忘れがある ということです。
飲み忘れがあると十分に薬の効果が発揮できていないことがあります。
残薬がある場合、持参して頂き日数調整をし、続く場合は医師と相談の上一包化を検討することで飲み忘れを防げる場合があります。

3.飲みにくい、使いにくい薬はないか

高齢者で嚥下機能が落ちていると大きな錠剤が飲みづらいことがあります。
また湿布薬はよく動かす部分に貼ると剥がれやすくなります。
そういった場合は医師の同意を得られれば、普通錠からOD錠や散剤への変更や、湿布薬からテープ剤への変更ができます。
そうすることで患者のアドヒアランスが向上し、より治療効果を発揮できる可能性があります。

4.副作用の具体的な症状が出ていないか

副作用の確認はポリファーマシーによる病状の悪化を防ぐために重要です。
ただし「副作用は出ていないですか?」という問いかけだけだと、患者さんは副作用が起きていたとしても思い出せず「ないです。」と言ってしまう場合が多いです。
もっと具体的に「突然動悸が起こることはありませんでしたか?」「疲れやすくなった、だるさを感じやすくなった、ということはありませんか?」といった問いかけに変えることで患者さんが思い出しやすく、聞き取りがうまくいくことがあります。

5.薬の増量、減量、新規処方時は医師からその話があったか、何故この量になったのか

薬の増量、減量、新規処方時は、より丁寧なヒアリングが必要です。なぜなら、実際現場では医師の書き間違えにより薬が多くまたは少なく処方されてしまう場合もあるからです。
高齢の患者さんですと、御自身の病気や薬について理解が乏しく、医師にどのような話をされたかを伺ってもヒアリングが難しいケースがあります。
「ヒアリングが出来なくてわからないからそのまま薬を渡す」は非常に危険です。この場合は身近な家族や在宅ヘルパーの方にも協力を仰ぎ、相互に理解した上で薬を服用してもらうことが、安全に治療を進めていくためにことが大切です。
そのためにも処方薬の増減、追加、削除の理由を伺うのはとても重要です。

6.風邪薬など臨時処方の場合は定期薬と重複していないか

風邪や怪我などで臨時に処方される薬は、いつもかかっている病院と違うところで処方される場合があります。
診察時に患者さんからの申告がないと医師は気づかず、定期薬と相互作用のある薬や、重複した薬を出してしまう可能性があります。
そのまま服用してしまうと患者さんが不利益を被ることがありますので、定期薬との組み合わせで問題を発見した場合は、必ず疑義照会で処方医に確認を行いましょう。

これらのことを正確に把握するには、経験や努力が必要です。どのように問いかけたら話して頂けるのかを研究し、日頃からコミュニケーションを蔑ろにせず一人ひとりとしっかり向き合い対応することが、一人前の薬剤師としてとても大切です。

かかりつけ薬剤師の活用

ポリファーマシーを防ぎ、安全に服用してもらうための工夫のひとつとして、かかりつけ薬局やかかりつけ薬剤師があります。
様々な病院で処方される薬を1つの薬局でもらうことで、薬の一元管理が可能になります。
同じ薬局、同じ薬剤師が担当するため患者さんとのコミュニケーションもとりやすく、薬の相互作用や重複も見つけやすくなります。事故を未然に防ぐことができ、ご高齢の患者さんにとってメリットが大きい制度です。
複数の病院の薬を併せて一包化することも出来るので、患者さんがどこの何の薬かわからなくなるという事態も減らすことができます。

今回はポリファーマシーを防ぐために薬剤師が出来ることについて解説しました。
高齢化が進むことで今後薬剤師に出来ることがどんどん増えていきます。
一足先の薬剤師になる為に自ら行動し、患者さん一人ひとりに信頼と安全を提供できる医療従事者を目指してみましょう。

 

参考:
高齢化の現状と将来像 令和元年版高齢社会白書(全体版) 内閣府
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2019/html/zenbun/s1_1_1.html
日本ジェネリック協会 ポリファーマシー
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/column/_19354.html
高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編) 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000208848.html
令和2年度診療報酬改定の概要 厚生労働省(令和2年3月5日版)
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000616842.pdf

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